同窓会誌  第6号より引用

研修医予定者の看護実習の評価

野 末 道 彦
(耳鼻咽喉科  平成3年度医員研修医委員会委員長)
はじめに

本年度の浜松医大同窓会誌のメインテーマとして、「医師のマナーについて考える」を取り上げたことは、まことに時宜を得たものであり、 その見識ある企画に敬意を表したい。 私には新卒研修医の看護実習について書くようにとの注文であるが、実際は平成2年度の医員研修委員会(委員長:池田和之教授)で企画されたものでり、 充分に討論され、多方面の同意を得て苦労して作成された計画であった。しかし実施されたのが平成3年度であったため、 新委員会としても私も関係したというようにご理解いただきたい。いずれにしろインフォームド・コンセント、クオリティオブライフなどが強調される今日、 研修医にとってばかりでなく我々にも、患者やコメディカルの人達とのコミュニケーションは重要な問題となっている。 このような観点から今回行われた看護実習を中心に述べてみたい。

看護実習について
  はじめにも述べた如く、今日強調されているインフォームド・コンセントを円滑に行うためには、 すべての医療従事者が患者との適切で充分なコミュニケーションを図ることがきわめて重要である。 すべての医療従事者とは、医師とコ・メディカルの人達であり、患者の病気の診断と治療を適切に行うためには、 これら保険医療チームの相互理解と協力が必要不可欠である。

このような観点から、これから臨床研修を行う医師として、最も身近に関わりをもつ看護職員の仕事を理解すると共に、 患者とのコミュニケーションのとり方、医師としてのマナーを体験実習して、臨床研修を円滑に実施することが出来るようにすることを目的として計画された。

実習方法としては、病室の看護チームに所属し、看護婦と1対1で行動し、看護職員の業務体制に沿って、主として次のような内容を実習することであった。 すなわち患者の@療養上の世話に関すること。A健康生活に関する相談、助言、援助活動に関すること。B診断治療上の介助に関すること。C観察一般。 およびD処置等の準備、後片付け、清掃、搬送等である。
  実習期間としては5月8日〜5月22日の2週間があてられた。
  実習対象者としては、浜松医大附属病院で新たに臨床研修を開始する予定者のうち希望する者とされた。

以上のような企画の下に実習を行った後で、実習者に感想を書いてもらった。以下にその主なものを記す。

T.勉強になったことなど。
@看護婦さんの苦労がわかった。とくに深夜・準夜の仕事が大変なことは体験してみないとわからない。
A看護婦さんの視点で患者をみることができた。その結果患者の苦しみがわかり、患者はその苦しみを医師には云わず、 看護婦さんに訴え相談することがわかった。
B 看護婦さん側からみて、医師の悪い面がわかった。例えば仕事しても後片付けをしない、礼儀をわきまえない、看護婦さんをお手伝いさんとまちがえている、 患者が呼ぶとすぐに来てくれるのは医師ではなく、看護婦さんである、などである。
U.今後の改良点・反省点など
@実習の時期を考慮すべきである。
今回は実習の間に国家試験の発表があったので、いろいろの問題が生じた。
A全員参加にすべきである。
今回は第1回目であるので希望者を対象としたが、参加を強制された者などに不満が多く、 時期を再検討して全員参加にした方がよい。
B各教室と充分な話し合いを行い、理解を求めてから行うべきである。
看護実習中に教室から呼び出しがかかったりする。
C時期については長すぎる、短すぎるなど両意見があった。
D事故があった時の責任はどうするか。
D実習のカリキュラムが具体的になっていないので、指導する看護婦さんも困る。
以上のような意見が述べられた。

実習を指導していただいた看護部にも感想を書いてもらったが主な点は以下の通りである。

T.看護部の仕事を理解してもらえて、今後一緒に医療を行う上で大変役に立つと思う。
U.実習中はこれに専念した方がよい。途中で医局会などに呼び出されると困る。
V.もっと医師側の理解と協力が必要である。
W.実習生で時間を守らない人があった。
X.具体的なカリキュラムがなので、何を教えてよいのかわからない。
などである。

評価と反省
  以上述べて来た如く、はじめての試みであった研修医予定者の看護実習は、看護職員の仕事を理解し、その苦労がわかったこと、 看護職員の側から患者や医師をみることができたことなど、やってみなければわからない有意義な成果が得られたことは、期待した以上のものであった。 このような体験は医師としての研修を通してもできるのではないかという意見もあったが、やはり医師として患者に対応するのと、 看護職員の立場から患者をみるのとは全く違うことがわかる。患者は医師に対してはその苦しみを云わず、看護婦さんに訴え相談するというような事実は、 我々のようにある程度経験を積んだつもりの医師にとっても耳の痛い話である。 医師の悪い面として指摘された「後片付けをしない云々・・・」の話でも、 かなり気をつけているつもりでも、看護側からみればやはりそうであったかと思い当たる事もないわけではなく、私自身大いに反省させられた点である。
  このようなことは医師のマナーとして身につけていることは当たり前のことと思われているが、違う側面からみてみないと気が付かない、 わからないということであろう。このような意味で、主催した我々にとっても大変勉強になった実習である。
  今後の改良点・反省点などとして指摘された問題もたくさんあるが、本年度の医員研修医委員会で充分検討して、来年度は全員参加するようにしたいと考えている。 このような努力を積み重ねることにより、医師のマナーを向上させ、すべての医療従事者が充分な相互理解をもって協力し患者へのインフォームド・コンセントを円滑にさせ、 よりよき医療が行えるように期待したい。
  最後に、はじめての試みであったため、看護職員、事務職員の方々にもかなり無理をお願いしたにもかかわらず、快く引き受けて下さり、 全面的な御協力をいただいたことに深く感謝申し上げる。