第8回 浜松医科大学 同窓会学術奨励賞受賞論文要旨


角質層破壊マウス皮膚への経皮的抗原ペプチド塗布による実験的がん免疫予防法

Percutaneous peptide immunization via corneum barrier-disrupted murine skin for experimental tumor immunoprophylaxis

瀬尾 尚宏(準会員) 本学皮膚科 助手

角質層を粘着テープによるストリッピング(TS)で急性に破壊した皮膚は、その後24時間をピークに物質透過性を高め、表皮LCが活性化しMHC分子、CD40、CD80、CD86などT細胞への抗原提示に重要な分子の発現を増強させ近傍リンパ節へ移動する。そこでTS後24時間が経過したマウス耳翼皮膚にメラノーマ特異的抗原(MAA)ペプチドを塗布したところ、近傍の頚部リンパ節内でMAA特異的キラーT細胞(CTL)感作がみられた。

さらにその2週間後にTS腹部皮膚を用いてMAAペプチド塗布を再度行えば、全身でメラノーマ特異的CTLを誘導できることも判った。in virto 実験からTS皮膚を介したCTL感作は表皮ランゲルハンス細胞(LC)に依存的である。TS皮膚を用いてMAA免疫したマウスはメラノーマ細胞の移植を拒絶できるが、同様に肺癌ペプチド免疫したマウスに肺癌細胞を移植した場合、その効果はメラノーマ細胞を用いることより弱い。この原因としてCTLプレカーサー頻度が大きく影響していることが判明した。

これまでの腫瘍免疫療法は、腫瘍抗原ペプチド、免疫賦活アジュバンド結合腫瘍抗原ペプチド、腫瘍抗原コード遺伝子を生体内に直接投与する方法や、それら抗原と培養樹状細胞を併用し生体内投与する方法が知られているが、これらの方法では生体が高濃度の抗原に急速に曝されるため危険性が非常に高い。本法は抗原の血中への直接投与では無く、皮膚を介した緩やかな抗原感作法であり、安全性が非常に高く臨床応用という点で実現性が高い先進的な方法である。

さらに本法はヘルパーT細胞への強い抗原提示能力を持つLCが感作の主体となるので、経皮的なCTL誘導ばかりでなく種々のヘルパーT細胞誘導をも自在に行える可能性があり、感染症に対するワクチンや自己免疫疾患治療などにも応用可能であり、今後の医学の発展に大きな一助になるに間違い無い。