小出幸夫氏

第13回学術奨励賞授賞選考委員会委員長講評




    選考委員会委員長      小出  幸夫



浜松医科大学同窓会奨励賞の選考委員長を初めて仰せつかった。しかし以前にも,数度,委員を務めたので戸惑いは無かった。選考委員を公表すると,浦野哲盟教授(生理学第二,同窓会副会長),梅村和夫教授(薬理学,同窓会会長),北川雅敏教授(生化学第一),橋爪秀夫准教授(皮膚科学),山本清二准教授(光量子医学研究センター),に小生を加えた6名であった。今回(第13回)は6名の応募があり,審議の結果以下の3名が選ばれた。松井啓隆氏(医学科16期生,広島原爆放射線医学研究所・助教),中村祐太郎氏(医学科第14期生,本学内科学第二講座・助教),河崎秀陽氏(医学科第16期生,本学病理学第二講座・助教)。

実は選考にあたっては大まかな選考基準に関する申し合わせ事項がある。その中には臨床研究は実験研究とは別枠で考慮するとの事項がある。その中には臨床研究は実験研究とは別枠で考慮するとの事項があるが,今回申請された論文には臨床研究に該当するものが無かった。(賢明な諸氏にはもうおわかりと思うが,これは案外ねらい目である。)ついでに述べるならば,本邦で行われた研究が優先されること,海外で行われた研究でも本邦での継続性がきたいされるものは評価するなどの申し合わせがある。この賞は論文を評価するので,これから応募する諸君は以上のことを参考にして,提出する論文を選んでもらいたい。中には他の論文で応募した方が有利だと思われるものもあった。

例年通り各選考委員は全ての論文に目を通し,更に専門性に鑑み指定された一編の論文を特に熟読して選考委員会に臨んだ。各委員は指定された応募論文の内容,質について説明し,その後討論を行った。その結果,まず Molecular Cell に掲載された松井氏の論文を全員一致で受賞論文に選んだ。Bim は造血細胞のアポートシス誘導因子であり,この発現不全が慢性骨髄白血病の発症に深く関わっている。松井氏はこの Bim mRNA の発現調節が転写調節ではなく,ヒートショック関連蛋白70による mRNA の安定性制御によって行われるという画期的な発見をした。

中村氏の論文は Cancer Research に掲載されたものである。通常,CD8+T 細胞はキラーT細胞として細胞傷害を示すが,記憶 CD8+T 細胞はこの活性を示さず,むしろインターフェロンーγを産生し抗原提示細胞に IL-12 を産生させるヘルパー機能を示す。中村氏はこの現象を抗腫瘍免疫に利用することにより,マウスに強力な抗腫瘍免疫を誘導することに成功した。この論文ではアイデアが優れていることが評価された。この研究は米国で行われたものであるが,樹状細胞を利用した研究は米国留学前も帰国後を行っており,継続性が認められた。

河崎氏の論文は Journal of Virology に掲載された。河崎氏は本学病理学第二講座に属しており,論文は講座のテーマであるサイトメガロウイルス(CMV)に関するものであった。神経幹・前駆細胞はCMVに感受性であることが知られている。そこで,将来神経性疾患の治療に期待される神経幹細胞移植の際にはCMVの再燃が懸念される。特に免疫抑制剤を用いた場合にはことさらである。しかし,山本氏は免疫制剤の一つであるシクロスポリンAはシクロフィリンを介してCMVをむしろ抑制するという発見を行い,その裏付けを精力的に行った。結果的にこのことが審査員の指示を得ることとなった。

毎回,素晴らしい論文が同窓会奨励賞に応募されてきており,頼もしい限りである。しかし,もう少し多くの応募があってもよいと思う。今回,選に漏れた方は再チャレンジ(もう忘れかけた言葉)を,そして他の同窓生も多数この奨励賞に応募していただくことを希望する。