第13回 浜松医科大学 同窓会学術奨励賞受賞論文要旨


サイトカインはヒートショック関連因子 heat-shock cognate protein 70 を介して Bim mRNA 安定性を制御する

Cytokines direct the regulation of Bim mRNA stabilitu by heat-shock cognate protein 70.    Molecular Cell; 25(1): 99-112,2007

松井啓隆氏  (医学科第16期生)    広島大学  原爆放射線医科学研究所  助教

Bcl-2 ファミリーのメンバー Bim は,造血細胞のアポトーシス誘導因子として,体内の白血球数や機能を調節している。われわれは,Bim の発現抑制が白血病細胞のアポトーシス異常の原因となり,慢性骨髄性白血病(CML)の発症に深く関与することを報告した(文献 5)。この成果に引き続き,Bim を標的とした白血病治療法の開発を目標にすえ Bim の発現制御機構を解析した。

造血細胞では,サイトカインにより Bim が mRNA レベルで発現抑制されるため,われわれは当初この制御が転写抑制によると考えた。しかしながら,サイトカイン依存的な転写調整の関与は証明できず, Bim の発現が抑制されるサイトカイン存在下でも Bim mRNA の転写が積極的に行われることを示唆するデータを得た(文献2)。

このことから,サイトカインによる Bim mRNA の発現調節が転写調節ではなく mRNA 安定性制御によりなされると考え,解析を試みた。その結果,サイトカインが Bim mRNA へ Heat shock cognate protein 70(Hsc70)の結合を抑制し, mRNA を不安定化することが判明した。すなわち,Hsc70 は一般に知られるシャペロン機能のほかに mRNA 結合因子としての側面を持ち, Bim mRNA を安定化する機能を有する。しかしサイトカインが Hsc70 と Bim mRNA との結合を抑えるため,Bim mRNA が不安定となり発現量が減少するのである。この際サイトカインは,Hsc70 とたんぱく質複合体を形成するコシャペロンとよばれる因子群( Bag-4,Chip,Hip,Hsp40 )を変化させ,Hsc70 の Bim mRNA 結合能を抑制する。

本システムは白血病細胞のアポトーシス制御異常にも関与しており,恒常活性化型 Ras 変異体や CML の原因因子 Bcr-Abl キナーゼからのシグナルは,Hsc70 複合体の Bim mRNA 結合を抑制することにより白血病細胞の生存を維持していることが明らかとなった。