第13回 浜松医科大学 同窓会学術奨励賞受賞論文要旨


神経幹細胞におけるシクロスポリンのシクロフィリンを介したサイトメガロウイルス感染抑制効果

Cyclosporine inhibits mouse cytomegalovirus infection via a cyclophilin-dependent pathway specifically in neural stem/progenitor cells.    Journal of Virologu 81:9013-9023,2007.

河崎秀陽氏  (医学科第16期生)    本学病理学  第二講座  助教

神経幹細胞移植は Parkinson 病,脳梗塞,ALSなどの難病神経疾患の治療に適用されることが予想されるが,拒絶反応の問題は大きな問題である。最近は iPS細胞開発で拒絶反応の問題は解決されるかのようにいわれるが,iPS細胞バンキング普及後でも拒絶反応の問題は残るであろう。

サイトメガロウイルス(CMV)は胎生期の幼弱な脳へ感染すると脳障害を引きおこす。成人では免疫不全状態,時にAIDSにおいてCMV脳炎を合併する。これらは脳におけるCMV感染感受性が感染感受性細胞の量と免疫状態の両方に依存していることを示している。われわれはマウス神経幹・前駆細胞がマウスサイトメガロウイルス(MCMV)に感受性を示すこと,マウス大脳でのMCMV感受性は神経前駆細胞の量により規定される可能性や神経幹・前駆細胞にCMVが潜伏感染する可能性を発表した。

CMVが感染感受性のある神経幹・前駆細胞を脳へ移植することは,拒絶反応を引き起こし,その炎症刺激(拒絶反応)によりCMV再活性化の問題をおこす可能性が高い。そこで免疫抑制剤が神経幹・前駆細胞においてCMV感染へいかなる影響を及ぼすのか検索する必要があった。そして神経幹・前駆細胞において免疫抑制剤であるシクロスポリンA(CsA)がCMV増殖抑制を認めることを発見した。CsA同様の calcineulin 阻害剤であるFK506 ではCMV感染効果はみられず,CsAとFK506の作用機序が異なる可能性を示された。そこでCsAの結合タンパクであるシクロスポリン(cyclophilin)に着目し,このタンパクの特異的阻害剤であるNIM811 がMCMVの増殖を抑制することを明らかにした。 cyclophilin Aに対する siRNAを用いても同様のCMV抑制効果がみられた。

これらの結果は神経幹・前駆細胞においてMCMV感染感受性は cyclophilin と関連することが示唆され, cyclophilin の抑制はCMV前初期蛋白発現抑制やCMV前初期 mRNAの発現抑制にも影響を与えていた。これは cyclophilin がCMV前初期遺伝子プロモーターにおけるクロマチンリモデリングに関わる可能性を示唆した。